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#3: Ghost Town Factory - Songs from Panasonic

ゲートの向こう、長い長い影を引きずりながら、今月最後のトラックが出てゆく。
五月の夕日の穏やかさとやさしさを、多少なりとも感じるこころとりもどせたのは、やはり月末の締めを無事に終えたせいだろうか。それとも長崎に来て2ケ月、慣れない仕事とやっとまともに付き合えるようになったせいだろうか。
終業時刻はとっくに過ぎていたが、月に百万台の生産をほこる日本最大の電話機工場は眠りにはつかず、夜勤作業員の手によってその永遠の目的である生産活動をフルパワーで続けている。
僕は台帳と電卓を机の上に放り投げると、ふらりと工場内をほっつきあるいた。
騒がしいけれど規則的で心地好いノイズと、泥臭いけどやみつきになりそうな油の匂いに包まれながら、機械が次々に製品を箱詰めしてゆく様子を眺めていると、何故か不思議な喜びと興奮が沸き上がってくる。ものづくりをすることの誇りというものについて、いろんな人がいろんな表現で語るけれど、現場を体験すれば言葉はいらない。僕たちが組み立てたものが世界中に出てゆき、人々に歓迎されればとても嬉しい。シンプルだけどそういうものだ。ラインを流れてゆく製品を目で追いつつ、、僕は満足感を覚えていた。


半年後、僕は久しぶりに長崎工場を訪れた。
しかしそこにあるのはもうあの日の活気あふれる姿ではなかった。
確かに9本の生産ラインが設置されていたはずのフロアは、がらんどうの資材置場へと変貌していた。生産設備は全てマレーシアと中国に作った新工場へ運び去ってしまったという。いろいろ親切にしてもらった製造のおっちゃんたちの多くは何処かへと去り、20以上あった下請け工場のいくつかはすでに倒産・廃業したと噂に聞いた。

工場事務所の壁には、「企業永遠・人材無限」と書かれた額縁が飾ってある。国家さえ永遠ではいられないこの世界で、何と傲慢な認識だろう。そして時代の流れはスローガンをあざ笑うかのようにしなやかな変化を遂げてゆく。為替レートは1ドル100円のボーダーラインを越え、底の見えない円高が進む。日本の製造業のあり方は今や変質を余儀なくされつつある。僕はさびしさとせつなさの吐け口を見いだせないまま、夕暮れの工場を
後にした。



企業が永遠であると信じることができた、僕らの父親たちの時代は、もう戻らない幸せな過去と呼べるかもしれない。しかし、21世紀のスローガンは、その全く逆で、「The company may be gone, but life goes on.」企業は死せれど、人生は続く。僕らはうつろいゆく時代の中で、いつも、誇りを持って立つことのできる、新しい舞台を、探しつづけていく、勇気を持っていたいと思う。


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